XXIII. カイジ清膏で肝癌を治療する実験研究

XXIII. カイジ清膏で肝癌を治療する実験研究

陳大興、陳孝平、張万広

(華中科学技術大学同済医学部同済病院肝臓外科センター、湖北、武漢の430022) 抄録 : 目的 ヒト臍帯静脈内皮細胞に対するカイジ清膏(エキス)の作用、及びヌードマウス皮下接種の肝癌細胞により形成された肝癌に対する抑制作用とその可能なメカニズムを検討する。 方法 異なる濃度のカイジ清膏でヒト臍帯静脈血管内皮細胞に作用し、細胞増殖能力、転移能力、付着能力及び血管生成に対する影響を観察し、同時にヌードマウス皮下接種の肝癌細胞による肝癌形成過程に対する影響を観察する。 結果 カイジ清膏 ? 2mg/ml の時に腫瘍組織の血管内皮細胞増殖能力を明らかに低下し、血管形成を減少し、血管内皮細胞の転移、粘着を抑制することによって、毛細血管密度を低下する。カイジ清膏( 3g/kg ) +MMC(500ug/kg)で 同時にヌードマウスの肝癌組織に作用し、その腫瘍抑制作用は一番強く、次は MMC 群、カイジ清膏( 3g/kg )群である。 結論 カイジ清膏は肝癌に対して抑制作用があり、可能なメカニズムは血管内皮細胞に作用し、血管内皮細胞の増殖能力、転移能力、付着能力及び血管生成を影響し、肝癌組織の血管生成を抑制し、肝癌組織の毛細血管密度を下げることによって、肝癌の生長抑制作用を発揮する。

キーワード :肝臓腫瘍 / 薬物療法;カイジ / 治療応用;臍静脈 / 胎生学;内皮細胞 / 薬物作用

中図分類番号 : R735.7 文献標識番号 : A 文章番号 : 1005-6947(2004)08-0578-05

  腫瘍治療方法の増多に伴って、腫瘍患者 5 年生存率はだんだん高くなってくる。しかし、中期、末期癌手術が受けるかどうかにもかかわらず、多数の患者は時々放射線治療、化学療法の毒副作用に耐えられない。ですから、耐薬性が小さく、毒副作用が少なく、しかも良好な免疫増強作用の薬物を探しだすのは治療の理想的な目標である。研究では [ 1 ]、体外ではカイジ清膏は細胞毒性があり、ヒト肺腺癌細胞系アポトーシスを誘発し、しかもシスプラチン耐薬 A549DDPの薬物抵抗性を逆転することを促進し、シスプラチンの化学療法に対して増強作用を果たす。カイジ清膏はヌードマウスに移植したヒト浸潤性乳管癌の生長に一定の抑制作用があり、同時に腫瘍内毛細血管密度( MVD )を低下することができる。第二期臨床試験では、カイジ顆粒で原発性肝癌を治療する有効率は 11.9 %、安定率は64.06 % であることを証明した[ 2 ] 。本文は肝癌の血管生成に対する槐耳顆粒の作用によって肝癌治療メカニズムを検討した。

1  材料と方法

1.1 材料

500g 瓶詰めのカイジ清膏製剤で 8mg/ml の PR-MI-1640 濃縮薬剤含有培養液を調製する。アルカリ性線維芽細胞生長因子( bFGF )(アメリカ Sigma 会社製造、ロット 0402CY081 )、血管内皮細胞生長因子( VEGF )(アメリカ Sigma 会社製造、ロット 01110 )、コラーゲン I (西安巨子会社の提供)、繊維ファイブラリッチ( FN )(アメリカ Sigma 会社製造、ロット 21100940 )、マイトマイシン( MMC )(浙江海正薬業製造、ロット 20010804 )、ヒト臍帯静脈内皮細胞系( HUVEC )(武漢大学保蔵中心の提供、ロット 304 )、ヌードマウス(同済医科大学動物センターの提供、メス、雄は各 12 匹、ネズミ年齢は 3 5 週間)。

1.2 方法

1.2.1 体外実験

( 1 )ヒト臍帯静脈内皮細胞(以下は内皮細胞と略称)の培養 HUVECを10 %小牛血清含有 1640 培養基において培養する。

( 2 )内皮細胞血管生成体外モデルの樹立 [ 3 ] コラーゲン Ⅰを0.1mol/L の無菌アルコール溶液に溶かし、最終濃度は 1.5mg/ml 、 4 ℃で 保存する。コラーゲン Ⅰ 溶液を氷の上に適量の10 %小牛血清 F12 培養液と均一的に混ぜて、 pH 値を 7.5まで調節し 、 800 μ l/ 穴を 6ウエルプレートに入れ、 37 ℃で孵化し、 それを1h凝固させる。内皮細胞を均一的にゲルに接種し、10%小牛血清含有F12培養液で培養する。細胞の生長は融合状態に近づけたら、上清液を廃棄し、無菌リン酸塩緩衝液で2回洗う。再度コラーゲンⅠゲル混合液を調製する、穴ごとに200μlで内皮細胞の上に覆い、ゲルが凝固してから、1%小牛血清含有F12培養液を変えて培養し、bFGF10ng/mlとVEGF15ng/mlを加えて血管生成を誘発する。第1、2、3穴にそれぞれカイジ清膏2mg/ml、3mg/ml、4mg/mlを加え、第4穴に0.4μg/mlのMMCを加え、第5穴にカイジ清膏3mg/ml+MMC 0.4μg/mlを加え、対照群に生理食塩水を加える。48hごとに薬を1回変え、共同で120h培養する。24hごとに位相差顕微鏡で1回観察し、穴ごとに6個視野無作為に選び、長く伸びて変形した細胞数を記録し、長く伸びた細胞は分芽管状構造を伸し、その数及び管状構造の長さを記録する。実験を3回繰り返す。

( 3)内皮細胞転移能力の測定 [3] 内皮細胞を6ウエルプレートに接種し、細胞の生長は融合状態に近づいてから、無血清培養基で12h静止し、無菌スパーテルですりきずをし、細胞間のすり溝を作る。無菌リン酸塩緩衝液で洗浄してから、カイジ清膏2mg/ml、3mg/ml、4mg/ml、MMC 0.4μg/ml及びカイジ清膏3mg/ml+MMC 0.4μg/mlをそれぞれ15穴に加え、他に1穴を対照とし、無血清培養基で培養する。穴ごとに無作為に4点を選んで標識し、24hにすりきず幅の変化を観察し、2d連続して、実験を3回繰り返す。

( 4)内皮細胞増殖能力の測定 [3] 内皮細胞を96ウエルプレートに接種し、10%小牛血清含有F12培養液で24h培養してから、無血清培養基で24h静止し、無菌リン酸塩緩衝液で洗浄してから、細胞をカウンターする。(3)で述べた各群薬物をそれぞれ相応な穴に加え、10%小牛血清含有F12培養液で24h引き続き孵化する。毎回、復穴を6個設け、実験を3回繰り返す。

( 5)内皮細胞の粘着能力の測定[3]:(3)で述べた各級異なる分量のカイジ清膏とMMCでそれぞれ3h予備処理した内皮細胞を膵リパーゼ-EDTAで消化して単一細胞に吹き散らし、予めFNで覆われた24ウエルプレートの穴に1×105を加える。同時に相応濃度の槐耳清膏とMMCを加え、37℃ 1h孵化してから上清を廃棄し、PBSで洗ってから倒立顕微鏡で穴ごとに無作為に4個視野を選び、付着細胞数をカウンタする。毎群に復穴を4個設け、実験を3回繰り返す。

1.2.2 動物実験

(1)腫瘍抑制実験 HepG2細胞(武漢大学保蔵中心の提供)第30代をそれぞれ同量(106)に24匹ヌードマウスの皮下に接種し、4群を分けて、毎群に6匹がいる。2週間飼育し、腫瘍が生えてから、第1群は毎日カイジ清膏3g/kgで飼育する;第2群はカイジ清膏3g/kg+MMC500μg/mlを筋肉注射する;第3群はMMC500μg/mlを筋肉注射する;毎日の午前に1回投与する。第4群はなにも処理せずに対照群とする。毎週、ヌードマウスの体重を秤り、そして腫瘍直径を測定する。1ヶ月飼育してから動物を殺し、腫瘍を丸ごとに取り出し、各群腫瘍の重量を比較し、腫瘍抑制率を計算する。

( 2)MVD測定は 免疫組織化学法を用いる。腫瘍組織をルーチンパラフィン切片し、切片の厚さは厚5μmで、北京中山生物技術株式会社より提供したSP試験キットの取扱説明を準じて染色する。MVD判断基準 [4] :内皮細胞或は幼若内皮細胞より形成された管状、狭ギャップ状、嚢状と空泡状の構造は黄茶色に染められ、カウンタ可能の血管と判断する。まず、低倍率で新生血管がもっとも密集区域を探し、それから400倍視野で、茶褐色に染めだ単一細胞と細胞群を観察し、それを一つの血管とする。それぞれ6個視野をカウンターし、カウンターの平均値をこの症例のMVDとする。筋肉層の血管或は管腔〉50μmのを排除する。

1.3 統計学方法

結果はいずれも計量資料で、± s で表示し、各群と対照群との比較はt 検定を用いる。

2 結果

2.1 体外実験においてHUVEC血管の生成及び内皮細胞形態の変化

対照群は細胞体伸長と分芽管状構造の突起があり、細胞体を不規則させ、隣接の変形細胞の間によく管状構造で相互的に連結し、細胞体の縦軸或は外に伸ばした管状構造にそって半透明の空泡或は亀裂がよく見られる。カイジ清膏 4mg/ml群及びカイジ清膏+MMC群の内皮細胞より生成した変形細胞数、管状構造数と長さは対照群に比べていずれも明らかに下がった( p <0.05)。カイジ清膏3mg/ml群の変形細胞数は24、72、96、120h点で、管状構造数は48120h点で、管状構造の長さは各時刻でいずれも対照群より明らかに下がった(いずれも p <0.05);カイジ清膏2mg/ml群の変形細胞数は24、96、120hで、管状構造の数は各時刻で、管状構造の長さは72120h時刻で、対照群と比べていずれも明らかな有意差があった(いずれも p <0.05)。MMC群内皮細胞より出た上述の変化は対照群と比べて明らかな有意差がなかった( p >0.05)。カイジ清膏は内皮細胞の血管生成を抑制し、血管生成の数を低下させるが;MMCは内皮細胞血管生成に対して影響しなかった(表1省略)。

2.2 内皮細胞の転移能力に対する影響

対照群と比べて、 MMC 群は明らかな差がなかった( p > 0.05 ); 2mg/ml カイジ清膏群は対照群と明らかな差があった( p < 0.05 )、 3mg/ml 及び 4mg/ml カイジ清膏群、カイジ清膏( 3mg/ml ) +MMC 群は対照群と極めて明らかな差があった( p < 0.01 )、カイジ清膏は降低内皮細胞の転移能力を低下させるのは濃度と関連することを示した。

2.3内皮細胞の増殖能力対するの影響

カイジ清膏 2mg/ml群の内皮細胞増殖能力は明らかに対照群より低い( p < 0.05 ) ;その他の 4群の内皮細胞増殖能力も明らかに対照群より低い、明らかな差があった( p < 0.01)(表3)。カイジ清膏、MMCはいずれも体外でヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖能力を抑制できることを示した。

2.4 内皮細胞の付着能力に対する影響

MMC 群は内皮細胞の付着能力に対して対照群と比べて明らかな有意差がなかった( p > 0.05 )。 2mg/ml、3mg/ml、4mg/ml カイジ清膏群、カイジ清膏( 3mg/ml ) +MMC 群は対照群と比べて、内皮細胞の付着能力は明らかな差があった( p < 0.05 )(表4 )。?明カイジ清膏は内皮細胞の付着能力を抑制できるが、 MMC はその付着能力に対して影響しないことを示した。

2.5 ヌードマウス皮下接種の肝癌細胞形成に対する槐耳清膏の影響

生存した 23 匹ヌードマウスは接種部位に腫瘍の生長が見られ、ヌードマウスのほかの部位と器官に腫瘍の生長が見られなく、肝癌に対する抑制作用について、カイジ清膏( 3g/kg ) +MMC500 μ g/kgの共同で肝癌に対する作用は最強で、次は MMC500 μ g/kg群、カイジ清膏(3g/kg)群、カイジ清膏(3g/kg)+MMC群のMVD低下が著明で、明らかな差があった( p < 0.05 )。 MMC群は対照群と比べて、MVDの形成が明らかな有意差がなかった( p > 0.05 )(表5)。カイジ清膏は接種形成した肝癌のMVDを低下する。MMC群は明らかな低下がなかった。(表5省略)

3  考察

  原発性肝癌はわが国でよく見られる悪性腫瘍の一つであり、進展が速く、予後も悪く、年病死率は 1/10000である [ 5 ] 。一般症状が出たら治療しないと、患者は短期内に死亡する。肝癌治療に有効、且つ体に毒副作用小さい薬物を探し出すことは、興味のある研究課題である。カイジは中国の古槐樹に生長する1種類の天然菌で、生薬になって約1500年間ある。カイジ清膏はカイジ菌質を熱水で抽出し、多種類の有機成分と10数種類の鉱物質元素を含み、主要な活性成分は蛋白多糖類である。その製剤は体の免疫機能の調節と促進、腫瘍細胞の殺傷と抑制の作用がある [ 2 ] 現在、その製品であるカイジ顆粒は臨床に応用されている。肝癌、肺癌、食道癌、腸癌等に対していずれも明らかな治療効果がある [ 2 ] 。   正常組織の血管内皮細胞は相対静止状態にあるが、腫瘍組織の血管内皮細胞は迅速増殖状態にある。腫瘍細胞は生成過程に多種類の血管内皮細胞由来の細胞因子を産生分泌し、これらの因子の作用で、血管内皮細胞は迅速的に増殖し、増殖血管の組織構造と生物学性能は変化を起こし、腫瘍の血管内皮細胞になる。このように増殖した血管内皮細胞は正常血管内皮細胞と異なる [ 6 ] 。腫瘍組織に、一つ小血管は数多くの細胞群に血液を供給し、少量の血管内皮細胞を損傷すると、多量癌細胞の死亡を引き起こし、増幅効果を産生する。血管内皮細胞は血流と密接に接触し、癌細胞を標的とする時によく見かける薬物伝達困難を克服する。血管内皮細胞は非転化性で、耐薬性突然変異を発生するチャンスが少ない [ 7 ] 。ヒト臍帯静脈内皮細胞は分化能力、新生血管の特性があり、腫瘍組織の血管内皮細胞に類似する。内皮細胞の転移、粘着、増殖、分化等多種類能力で共同的に細胞の血管生成能力を決定する。ヒト臍帯静脈由来の内皮細胞の転移、粘着、増殖能力に対する薬物の影響を研究し、腫瘍細胞に対する薬物の影響を解明することができる。本実験の結果では一定濃度のカイジ清膏が腫瘍組織の血管内皮細胞増殖能力を明らかに低下し、血管の形成を減少し、血管内皮細胞の転移と粘着を抑制し、血管密度が下がり、そして腫瘍組織の生長を抑制することができる。   本群動物実験の結果によると、肝癌に対するカイジ清膏の抑制作用の可能なメカニズムは:まず血管内皮細胞に作用し、内皮細胞の増殖能力、転移能力、付着能力及び血管生成を影響し、それによって肝癌組織の血管生成を抑制し、肝癌組織の MVDを下げて肝癌生成の抑制作用を発揮する。 MMCは肝癌組織生長を抑制できるが、肝癌組織の MVDを影響しない 。 《

中国一般外科雑誌》2004年第8期に発表した

参考文献

[ 1 ] 黄涛、孔慶志、盧宏逹ら、. . カイジ清膏によるヒト肺腺癌細胞 A549 アポトーシスを誘発する実験研究[ J ] . 中華結核と呼吸雑誌、 2001 、 24 ( 8 ): 503-504.

[ 2 ] 庄毅 . 真菌抗癌薬物のカイジ顆粒の研究製造[ J ] . 中国腫瘍、 1999 、 8 ( 12 ): 542 .

[ 3 ] 黄海東、劉志紅、劉浩ら、内皮細胞の血管生成能力に対するミコフェノール酸及びデキサメサゾンの影響[ J ] . 中華医学雑誌、 2001 、 81 ( 13 ): 801-804

[ 4 ] 李宏江、敬静、朱精強ら、. 乳腺疾病で毛細血管の観察分析[ J ] . 中国一般外科基礎と臨床雑誌、 1999 、 6 ( 5 ): 285-287 .

[ 5 ] 呉階平、Qui法祖. 黄家駟 外科学[ M ] . 第 5 版 . 北京:人民衛生出版社、 1992 、 1325-1326.

[ 6 ]劉麗、肖暢、王ら、. 内皮細胞に対する組換え可溶性 KDR 及び抗体の増殖抑制作用[ J ] . 中国腫瘍生物治療雑誌、 2002 、 9 ( 1 ): 23-26 .

[ 7 ] 張莉、劉皋林. 腫瘍血管内皮細胞の抗癌治療に関する研究進展[ J ] . 第二軍医大学学報、 2000 、 21 ( 10 ): 987-990 .

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