II. カイジの開発と臨床応用

II. カイジの開発と臨床応用

程若川、王建忠 (昆明医学院第一付属病院一般外科、昆明650032)

抄録:カイジが生薬になって1,500数年間だが。すでに約300年間埋没した重要な薬用真菌ーキノコで、その漢方薬料のカイジ菌質とともにここ数年に国家漢方薬第一種類新薬に批准された。カイジ関する研究開発及び腫瘍疾病への応用について概説する。
キーワード:カイジ;

研究開発;腫瘍

中図分類番号:R282.71 文献標識番号:A文章番号:10030242(2003)02011103

1 カイジ菌の分類と生物学特性

(1) カイジ菌の分類

 カイジ(槐蛾)は我が国の民間での重要な薬用真菌で、その学名はTrametes robiniphila murr、漢方薬名はカイジ栓菌[1]である。それは老齢の中国槐(エンジュ)sophora japonica木の幹にしか成長しない。Ainsworthら1973年の分類システムによると、担子菌亜門basidiomycotina、 サルノコシカケ科polyporaceae、シロアミタケ属(Trametes )に属する[2]。現在、ある関連文献は間違っていて、それがエンジュ木にあるクロキクラゲだと思われ、それに対する認識が比較的に混乱している。

考証詳細:カイジが1,500年前に《肘後方》に初めて現れ、明(みん)朝まで《本草綱目》などに本草関連の記録があり、味苦辛無毒(味が苦い、毒がない)、”治風”、”破血”、”益力”ができ、[3]、しかし約300年前の清朝に埋もれていたが、現在ではカイジは槐栓菌であることは実証された[2]。その産地の民間で癌と炎症の治療によく使われている。

(2) カイジの生物学特性

 カイジ菌糸体の生長適宜温度:最低温度が5℃、最高温度が37℃、適宜温度が30℃で、最適pHは5.5である。菌糸の生長と製品の薬効試験など情況によって、菌糸成長、発酵に必要な栄養成分比率、含水量と環境条件を制定できる。

2 カイジの発酵工程[4]

  カイジの培養方法が複雑で、成長周期が長く、生物効果が低く、薬用の必要に供えにくいので、その他の生長技術を検討しなければならない。 カイジは0100日の発酵過程に、発酵時間の増加とともに、基質は菌種に転化し、多糖類の含有量は次第に下がり、蛋白質の含有量は次第に上昇し、両者の間に増減関係がある。一定の発酵周期(約45日)に達すると、多糖類と蛋白質は安定に向かい、この時期の菌種から抽出された成分の腫瘍抑制率が一番高く、カイジ菌が栄養成長から生殖生長に転向する段階である。薬理試験では、多糖蛋白がカイジ菌質の重要な有効な成分であることを実証し、これによってカイジの発酵品質コントロールの指標及び菌質発酵終点の判定を決められる。それも薬品の重要な品質基準である。

3 カイジ薬理の基礎研究[5]

(1) 化学研究

 カイジ菌質及び清膏(抽出物)には多種類の有機成分を含み、その中に10数種類の鉱物質元素が子実体と一致する。主要な活性成分は多糖蛋白(PST)で、それは1種類の茶黄色粉末で、明らかな融点がなく、280℃の時に暗くなり、水に溶けやすく、低い濃度のアルコールで少し溶け、水溶液がpH56、旋光性がない。分析によって以下の成分から構成される: 6種類の単糖類:Lフコース、Lアラビノース、Dキシロース、Dマンノース、Dガラクトース、Dブドウ糖。18種類アミノ酸:アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、シスチン、バリン、メチオニン、イソロイシン、チロジン、フェニルアラニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、アルギニン。 その中に多糖類の含有量は41.53%、アミノ酸の総量は12.93%、水分は8.72%、相対分子量は30000で、多糖類分子のグリコシド結合タイプはB型である。

(2) 薬理試験

 一定の用量範囲内に、カイジ清膏(抽出物)の経口投与によるマウス肉腫S180生長の抑制率が2546%,腹水型S180の延命率は38%で、粗多糖類とPSTで経口投与と経腹腔投与にも同様に明らかな腫瘍抑制率と生命延長作用があった P<0.05またはP<0.01。清膏、多糖類とPSTはマウス肉腫S180、腹水型S180に対して明らかな腫瘍抑制作用があり、担腫瘍動物に対して明らかな生命延長作用があることを示した。多糖類の経静脈投与は犬の血圧、心電図、心拍と麻酔後の呼吸リズムに対して、いずれも明らかな影響がなく、ウサギの呼吸系、ラットの神経系の試験でも異常は見られなかった。カイジは心臓血管、神経と呼吸系に対して明らかな影響がないことを示した。ラット、マウスへの清膏経口投与はいずれもLD50値を測り出されなかった。ラットに長期的に大量的に経口投与して、犬の各用量群に半年連続して経口投与を行い、試験動物の成長が正常、血液像、生化学分析も異常なし、薬物による病理的変化も見られなかった。特殊毒理、例えば変異試験と細胞遺伝毒理、小核及び染色体突然変異試験なども陰性反応であった。

(3)免疫試験

 免疫試験では、カイジはマクロファージの機能に対して非常に明らかな促進作用があり、ライソザイムの活性を増強することができ、臍帯血EaRFCとGVHRに対して促進影響があり、α、βインターフェロン誘発、αインターフェロンのNK活性促進にも協同作用があり、特異性抗体の産生を促進し、マウスの脾臓細胞DNA合成を促進するので、それが明らかに抗体免疫機能を促進できることを示した[6]。それは血清中のヘモグロビン含有量を高めて、赤血球形成に対して一定の作用があることを示した。

4 カイジ顆粒の臨床応用

(1) カイジ顆粒で肝癌を治療する

 顧承美ら[7]は、カイジ顆粒を漢方薬、放射線治療法と併用して肝癌72例を治療した。治療群はカイジ顆粒と漢方薬を併用するのが12例、カイジ顆粒と漢方薬と肝臓部位放射線療法を併用するのが24例で、計36例であり、対照群は単独の漢方薬(5例)または漢方薬と肝臓部位放射線療法を併用するのが(31例)計36例であった。臨床観察によって、彼らはカイジ顆粒が次のいくつかの作用がある:(1) 肝癌のサイズに対する縮小、抑制作用;(2) 明らかに患者のAFPレベルを下げる;(3) 明らかに肝癌患者の症状を改善する、特に肝臓部位の疼痛、腹膨満感、腹水に対して効果が良好である;(4) 放射線治療による白血球低下作用を防止することができると考えている。カイジ顆粒と放射線治療を併用して、腫瘍を有効に抑制することができ、総有効率は92%に達した。

(2) カイジ顆粒で膀胱癌を治療する

 膀胱癌は悪性度が高く、もし術後に比較的に良好な予防治療を行わないと、再発率が高くなり、患者の生命に危害を及ぼし、ですから、膀胱癌術後の生存率の向上、無腫瘍の期間延長は重視と検討する価値があるに違いない。周啓康[8]は60例の膀胱癌患者に対して無作為に群に分け、治療群と対照群はそれぞれ30例、治療群は術後にチオテパ、マイトマイシンCを交替して膀胱内に注入すると同時に、カイジ顆粒を投与し、対照群はカイジ顆粒を加えない。結果として、カイジ顆粒と化学療法を併用する群は明らかに単独化学療法より優れ、膀胱腫瘍の再発防止に良好な効果があり、腫瘍細胞成長を抑制するだけではなく、まだ体の免疫力を強めることができ、内因性的にα、βインターフェロンを誘発する。

(3) 慢性薬品(顆粒)球性白血病の細胞因子に対するカイジ顆粒の影響[9]

 邱仲川らは、慢性薬品(顆粒)球性白血病(慢性期)に対するカイジ顆粒の治療効果を観察するため、30例の慢性期患者を選び、カイジ顆粒で治療した。結果表明:慢性期患者に対するカイジ顆粒の完全緩解率は36.67%、部分緩解率は43.33%、総有効率は80%に達した。しかも治療群の細胞因子レベル、例えばインターロイキン2、腫瘍壊死因子a、インターフェロンaは治療前後で明らかな有意差があるので、カイジ顆粒は慢性薬品(顆粒)球性白血病の慢性期患者に確実な治療効果があると考えている。

(4) カイジ顆粒とFAMを併用して末期胃癌を治療する

 劉星野[10]らは8例の胃癌患者に対して無作為に群に分けて治療を行い、いずれもⅢb、Ⅳ期を属し、手術不能、術後再発または移転のある患者であっった。病理分類:管状腺癌(4例)、低分化癌(8例)、粘液腺癌(2例)、印環細胞癌(4例)、治療群(18例)と対照群(20例)であった。治療群は対照群FAMの上にカイジ顆粒を併用し、6ヶ月の生存率統計で現す:治療群は61%(12/18)、対照群は45%(9/20)、両群の間に明らかな有意差があった(p〈0.05〉。両群はいずれも急性不良反応は現れず、Ⅲ度以上の毒性もない。作者は、カイジ顆粒の経口投与とFAMを併用して末期胃癌を治療すると、FAMの治療効果を高めることができ、明らかに末期胃癌患者の生存期間を延長する。

(5) カイジ顆粒とCHOP治療法を併用して非ホジキンリンパ腫を治療する

 非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療進展が速く、しかし中度、高度悪性再発NHLの再度化学治療について、臨床では依然として比較的難しい問題である。趙文生[11]は、カイジ顆粒を併用するCHOP治療法と単独CHOP治療法で治療を行い、短期治療効果、T細胞亜群の分布状態と毒副反応について、比べて観察し、結果として併用治療群は化学治療した後、CD3、CD4レベルは明らかに対照群より高い(p〈0.01〉。再発性難治性NHLの再度化学療法にカイジ顆粒を加え、抗腫瘍の増加、白血球作用の増強と体の免疫機能の向上作用があり、比較的良好な短期治療効果を得ることができ、しかも体の毒性反応を増加しない。

(6) カイジ顆粒でB型肝炎を治療する

 カイジの産地で、民間もそれを使って肝炎を治療している。試験を通じて、清膏はマウス血清のインターフェロンに対する誘発作用が非常に明らかで、アヒル肝炎ウイルス(DHBV)を感染された実験アヒルに対して、投与後、アヒル血清HBVDNAレベルを明らかに下がる。臨床ではカイジ顆粒をHBeAg陽性慢性B型肝炎の患者に試しに使い、陰転率は33%に達した[5]。カイジは慢性B型肝炎患者に対して比較的に良好な治療効果があり、それはB型肝炎患者の癌化を遮断する可能性を示した。

5 展望

 漢方医薬は中国伝統医学の貴重な宝物で、その独特な診断と治療理論はますます世間の注目を浴びる。数千年の発展を経て、それは日に日に改善され、更に容易に患者に受け入れるようになっている。特に近代では、西洋医学の流入に伴って、我が国で中医、西洋医学理論は対立から共存へ有機的に結びついている。いかに近代医学の理論と実験技術を生かし、別の角度から漢方薬のメカニズムを検討することは次第に注目問題になり、これも中国伝統医学は国際医学へ広める肝心な所である。

 カイジ顆粒は漢方薬国家第一類新薬の典型代表として、腫瘍抑制、免疫増強の2重作用があり、化学療法と併用して、化学療法患者の毒副作用を軽減し、全身症状を改善し、生活質を高める。投与は安全、便利、信頼できる利点があり、1類の得難い抗癌剤新薬で、臨床でさらに広める価値がある。上述したように、現在、カイジ顆粒ついての基礎研究はほぼ明瞭され、臨床での試験応用も腫瘍疾病を始めとする多領域に関わったが、まだ完全にカイジの作用メカニズムを解明されていなくて、残念に思う。分子生物学理論と実験技術はここ数年ますます関心を浴びてきて、すでに人類生命科学を検討する重要な手段になった。そこで筆者は、細胞分子生物学の角度から腫瘍細胞分子に対する槐耳(カイジ)の作用メカニズムを検討することは、今後早急に解決を要する問題で、同時に臨床応用領域の開拓に肝心なものである。

参考文献

[1] 叔群.中国の真菌[M].北京:科学技術出版社、1963.515

[2] 庄毅. カイジの鑑定と考証[J].中国食用菌、1993,13(6):22

[3] 李時珍. カイジ[M].本草綱目下冊(野菜の部)二十八巻.北京:人民衛生出版社、1982.1712

[4] 庄毅.薬用真菌の固体発酵[J].中国薬学雑誌、1991,26:80

[5] 庄毅.抗癌剤新薬のカイジ散剤の研究[J].中国薬学雑誌、1998,33(5):275

[6] 陳慎宝、丁如宝.マウス免疫機能に対するカイジ菌質成分の影響[J].食用菌学報、1995,:21

[7] 顧承美、丁爾辛.金克カイジで肝癌を治療する[J].上海漢方医薬雑誌、1994,7:16

[8] 周啓康.金克、チオテパとマイトマイシンCを膀胱癌への応用[J]浙江腫瘍、1998,4:249

[9] 邱仲川、陳佩、胡、徐楓ら.細胞性白血病細胞因子に対する金克カイジ顆粒の影響[J].中国腫瘍、200,9(12:577

[10] 劉星野、周黙巍、徐楓ら.金克カイジ顆粒とFAMを併用して末期胃癌38例を治療する[J].浙江腫瘍、1999,5:189

[11] 趙文生.再発性非ホジキンリンパ腫に対する金克を併用する化学療法の治療効果[J].中国腫瘍、1999,8(5):238

《昆明医学院学報》2003年第1期に掲載

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