I. 抗癌剤カイジ顆粒の開発

I. 抗癌剤カイジ顆粒の開発

庄毅 (南京中医薬大学薬用菌と漢方薬生物技術研究所、南京210029)

《中国腫瘍》1999年第8巻 第12号

 カイジは老齢の中国槐(エンジュ)Sophora japonicaに生長する高等な真菌子実(カイ栓菌)で 、民間では癌、炎症などの治療に使われる。近代生物科学には真菌門Eumycotaが菌界Mycosystemaに属し、合計約40万種類ある。すでに開発された薬用真菌はわずか0.01%~0.1%しか占めてないから、開発の潜在力は無限である。現在使われている約30種の薬用真菌には約50%が抗癌作用に関与するが、よく効くのはわずかの品種しかない。民間でいわれた“カイジ”について鑑定を行い、規格品と混在品種が7種類に達することを発見し、大部分が多孔菌科Polyporaceaeである。形態の違いだけではなく、宿主も多くは異なる。調査研究を重ね、規格品の「カイジ」は老齢中国槐(エンジュ)に生長するカイ栓菌 Trametes(ホウロクタケ属)、学名 Trametes robiniophila Murrである。

  1. カイジ菌種(カイ栓菌)と生産技術

 カイジの宿主となる老齢の中国槐(エンジュ)は日に日に少なくなり、しかも宿主があってもカイジが生長するとは限らないため、分離菌種に使える子実体を採集して人工培養を行なっても、実用できる子実体は得ることもきわめて困難である。それゆえ薬用カイジは生物転換技術で発酵工程の道を歩むしかない。

 関連研究の結果としてカイジ菌(カイ栓菌)の液体胞子と発酵の生産技術を開発した。多くの薬用菌種は長期的に無性繁殖を行い、何世代も培養すると菌種の退化を招くが、カイジ菌(カイ栓菌)の生命力は強く、正しく培養方法で10世代以上を増殖させ、形態と細胞学の観察及び発酵製品の薬効試験などで退化現象が認めていない。しかも子実体の再栽培も成功した。菌種は有性繁殖により若返ることができるから、カイジ菌質は根本的に種菌退化問題を克服した。発酵90日間に成分変化の度合いによって原料の新鮮度、薬品(顆粒)のサイズ、緊密度などについて一連の生産操作仕様を制定し、最も重要な問題、発酵終点の判断と発酵製品の品質判断基準の研究について、発酵基質と10~100日間内の菌種を10~15日間ごとに各発酵時間の菌種サンプルを抽出、乾燥した後に成分を抽出して多糖類と蛋白質などの含有量を測定し、そして動物体内の腫瘍抑制試験を行った。結果として発酵基質に多糖類の含有量が最高で、蛋白質の含有量が最低をと示した。発酵後、基質から菌種へ転化は発酵時間の延長とともに、製品中の多糖類含有量は迅速に下がり、蛋白質の含有量はしだいに上昇し、両者間には一定の増減関係がある。発酵周期が約45日間に達すると、多糖類と蛋白質の含有量はだんだん安定に向かい始め、この時期にある菌種より抽出した成分の腫瘍抑制率は一番高い。これも菌種中のカイジ菌糸体が栄養生長から生殖生長への転換段階である。

 薬理試験では、また多糖蛋白(PS-T)がカイジ菌(カイ栓菌)の重要な有効成分であることを実験によって証明した。それゆえ、多糖類と蛋白質の含有量によって発酵品質の監視指標にすることと、菌種の発酵終点を判定することができ、それも薬品の主要な品質基準である。

 カイジ菌質は菌種類の新薬材で、それは生物転化技術でほぼ完備された発酵工程により生産された新しい真菌種である。厳格な品質コントロール基準と良好、安定な生産条件を揃えるから、製品の品質は良好、安定である。日に日に整った固体発酵理論と生産技術はその他の新薬用菌の研究と開発にも重要な応用価値がある。

2. カイジ新薬の基礎研究

(1)  化学研究

カイジ(カイ栓菌)菌糸体を熱水抽出後、精製して得られる多糖(取得率は1.5~1.8%で、PS-Tと略称)。またマウス肉腫S180の腫瘍抑制試験を通じて、腫瘍抑制率は40%~47%で、PS-Tが抗癌活性を持つことを実証した。これはカイジ菌質の有効成分である。多糖蛋白は真菌種によく見られる有効成分で、例えば、有名な雲芝多糖PS-Kも有効成分である。PS-Tは茶黄色の粉末で、明らかな融点がなく、280℃の時に黒くなり、お湯に溶けやすく、低濃度のアルコールに微溶、水溶液のPHが5~6、旋光性がない。ろ紙クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、 高速液クロマトグラフィー、 ポリアクリルアミドゲル電気泳動、紫外と赤外スペクトル、MRIなどの分析で6種の単糖から構成された複合多糖類が18種類のアミノ酸と結合した蛋白質であることを証明した。カイジ多糖類蛋白(PS-T)の多糖総量が41.5%、アミノ酸総量が12.9%、水が8.7%、相対分子量(MW)が30,000で、多糖分子の配糖体結合配置は主にグリコシド結合である。 カイジ子実体がきわめて稀少なため、それを菌種と詳しく比較しにくく、両者の糖蛋白質について赤外線吸収スペクトル、アミノ酸組成、融点、pH、旋光性及び鉱物質元素などの物理化学性質を比較して、両者が高い一致性があることを実証した。いくつかの量的な差異があるだけである。例えば菌種と多糖蛋白のアミノ酸含有量は子実体と子実体多糖蛋白より高いならば、品質は比較的に良好であることを示した。

(2) 薬理・免疫の研究

(i) 薬理

 薬効研究は、全軍癌研究センター、中国科学院上海薬物研究所と腫瘍研究所などでそれぞれ行った。結果として、カイジ清膏(熱水抽出物)経口投与の薬効最適量が1,500mg/kgで、 肉腫S180に対する腫瘍抑制率が46%、腹水型S180対する1,000mg/kgの延命率が38%(P〈0.05)、粗多糖類を200mg/kg腹腔内投与してマウス肉腫S180に対する腫瘍抑制率が48%、1,000mg/kgの延命率が50%、500mg/kg PS-T経口投与の腫瘍抑制率が47%、200mg/kg腹腔内投与の腫瘍抑制率が40%、清膏、粗多糖カイジ清膏と多糖類は体外培養のP399細胞に対する生長抑制に明らかな作用がなかった。実験中、清膏と多糖類がいずれもマウスに対する明らかな毒性がなく、動物の体重は多糖類各投与量群ともにある程度増加したことが認められた。

(ii) 免疫

 免疫実験は、液性ならびに細胞免疫を含んだ特異性と非特異性免疫に対し、いずれも良好な反応を示した。カイジがマクロファージの貪食能に対する明らか促進作用を持ち、ライソザイム活性が明らかに増強させた。臍帯血EaRFCとGVHRに対する増進作用を持ち、α、γインターフェロン誘発、αインターフェロンよりNK活性促進に共同作用があり、特異抗体の発生を高め、マウスの脾細胞DNA合成を促進した。

(3)  一般薬理試験

 20~250mg/kg多糖類を静脈注射で投与し、各群イヌの血圧、心電図、心拍数に対して明らかな影響がなく、麻酔後の呼吸リズムにも明らかな影響がなく、家兎の呼吸系とラットの神経系の実験にも異常所見を見られなかった。

(4)  毒理の研究

(i) 急性毒性試験

 マウスにカイジ清膏>20,000mg/kgを経口投与(ヒトの臨床常用量の126.6倍:乾清膏7.92g/d)し、ラットに>15,000mg/kgを経口投与(ヒトの臨床使用量の95倍)し、いずれもLD50を測り出せなかった。最大耐容量について、マウスが20,000m/kgで、ラットが15,000mg/kgで、マウスとラットに多糖類の腹腔内投与と静脈内投与により、いずれも動物の死亡を引き起こすことがなかった。

(ii) 長期毒性試験

 ラットの各試験群にヒトの臨床投与量5.5倍、50.6倍および95倍の清膏を経口投与し、ほかに水投与の対照群を設け、90日間連続投与した。各投与群実験動物の活動と体重増加は正常で、血液生化学や血液像各項目の明らかな差異はなく、各臓器の形態、群織学の検査結果がすべて正常であった。イヌのカイジ清膏(エキス)少量投与群は臨床等効量の0.21g/kgで、大量投与群は5.2g/kgで180日間連続投与し、イヌの体重増加とともに毎月に投与量を調整した。一般的徴候、外観、行為、食事、糞便を観察し、異常は認められなかった。投与期間中の体重変化は対照群と差がなかった。肝および腎臓機能、血液像と心電図などを測定し、いずれも異常は認められなかった。各主要臓器の肉眼所見、病理群織学、形態学の検査も異常は認められなかった。薬物による病理的変化も見られなかった。

(iii) 特殊毒理 カイジ清膏による変異試験

 小核と染色体変異試験はいずれも陰性であった。 カイジ菌質とカイジ顆粒が“新薬審査許可方法”の規定により、薬品品質基準と安定性試験を行い、江蘇省薬物検査所、衛生部新薬審査センターの審査を受けて合格し、部級(厚生省に相当)公布基準に達した。

3. 臨床試験

(1) 第Ⅰ期臨床試験

 カイジ顆粒の臨床使用量は成人が1日3パック、1パックは20gで、乾清膏2.64gを含んでいる。正常群には1ヶ月間投与し、投与前後の肝機能、腎機能、血液ルーチン検査と心電図などを行い、いずれも影響されなかった。骨髄機能に対する抑制作用も見られなかった。

(2) 第Ⅱ期臨床試験

 カイジ顆粒を用いて、中期ならびに末期の原発性肝癌128例を治療し、1978年全国腫瘍薬物会議で決めた治療効果評定基準に準じて、完全寛解が5例、部分寛解が10例、安定が69例、進展が46例、有効率が11.9%、安定率が64%、治療後生存期間について1~6ヶ月が78例、6ヶ月~1年が32例、1年が11例、1年以上から2年が12例、2年以上が7例であった。1年間生存率が30%(30/100)、 追跡調査終了後、最長生存期間が11年を越えた。カイジ顆粒は抗癌作用と症状緩解、生命延長などの作用があり、しかも安全、無毒、無副作用であることを示した。同時に5FU対照群を合わせて各32例の第Ⅱ期原発性肝癌をいずれも一ヶ月以上治療した。結果として2群の臨床効果は類似していたが、治療後1年間生存率はカイジ群が25%、対照群が4%で、明らかな有意差がみられた。

(3) 第Ⅲ期臨床試験

 6つの病院合わせて405例を行い、その中に50例はMethylcantharidinimide 対照群である。症状が第Ⅲ期になった患者は1ヶ月の治療コースで、3ヶ月間以上観察した。第Ⅱ期患者は3ヶ月の治療コースで、1年以上観察した。治療コースの間に明らかな境界線がなく、連続投与することができる。原発性肝癌の診断と治療効果の基準は1993年衛生部の《漢方薬新臨床研究指導原則》に準じた。漢方医学ならびに西洋医学によって、症例のステージ と型を分類する。西洋医学分類では硬化型が主として381例(94.1%)、第Ⅱ期が244例(52.8%)、第Ⅲ期が174例(43.0%)である。210例の漢方医学分類では脾虚湿困型が50例(23%)、肝腎陰虚型が60例(29%)、気滞うっ血型が87例(41%)、肝胆湿熱型が13例(6.2%)である。試験結果としてカイジ顆粒は肝臓区域の疼痛軽減、腹部膨満感と脱力の解消、黄疸の改善、腹水の減少し、体重の増加、カルノフスキースコアの増加、(付属表省略)AFP陽性患者AFP含有量の下降など作用があり、症状が好転、中位持続時間が4ヶ月であった。405例には、部分寛解が11例、安定が267例、安定率が68.64%であった。治療後生存期の半年間生存率が67.9%、1年生生存率が44.7%である。

 明らかな毒副作用が認められず、治療効果と治療期間は正の相関関係があった。上記の漢方4種分類の結果として、漢方各タイプの安定率がそれぞれ64.0%、71.7%、23.1%を示し、気滞うっ血型と肝腎陰虚型の治療効果が比較的によく、脾虚湿困型、肝胆湿熱型が比較的劣った。メチル基maoアミンの対照群とそれぞれ50例を治療し、各指標を比較した。カイジ顆粒は対照群より明らかに優れる(p〈0.05またはp〈0.01)。

(4) その他の適応症

 実際の治療では、カイジは中期や末期の原発性肝癌に良好な治療効果の他、消化器癌肺癌乳癌子宮頚癌白血病悪性リンパ腫などに単独投与、あるいは手術、化学療法、放射線治療などと併用することにより良い治療効果が示した

 B型肝炎の実験では、清膏がマウス血清中インターフェロンに明らかな誘発作用を認められました。アヒル肝炎ウイルスDHBVに対して、投与後、アヒル血清HBV-DNAレベルを著しく下降させた。臨床でHBeAg陽性患者に投与した。陰転率が33%に達し、対照群は普通肝臓栄養薬のビタミンCで40例を治療し、陰転率が5%であった。カイジは慢性B型肝炎に比較的良好な治療効果があり、B型肝炎患者の癌化を遮断できる可能性を示した。それゆえ、更にカイジ顆粒の臨床適応症について広く深く探る価値がある。

 衛生部は1992年にカイジ菌質とカイジ散剤(粒剤)を漢方薬の1類新薬として許可した。

4. カイジ抗癌メカニズムの検討

 カイジは味苦辛、性平無毒、効能が治風、益力、破血、五痔、心痛を主に治ると記載されている。中国代伝統医学には癌、腫瘍などの病名がなく、“病しゃ積聚”の範疇に属し、正気欠虚、邪気乗襲、血気逆乱により気血が臓腑経脈にうっ滞する疾病である。臨床で臓腑気血気うっ阻或は衰弱症状を表す。カイジの機能はこれと関係がある。

 益力:益力は気の益になり、正を支え、五臓六腑の真気を固めて支えることにより、虚弱な臓腑機能をだんだん元に戻させ、血気盛り且つ臓腑機能の正常運行を促進する。それによって邪(病気)を押し出す。この概念は近代医学の免疫機能を高めることと一致する。

 破血:気は血の帥(すい)、血は気の舎、気行すると血行し、気滞するとうっ血し、気が生まれないと血が欠、血が溶けないと気が虚、血気が不調、臓腑が逆乱になる。カイジは益力、破血、化鬱(鬱血した部分を取り除く)、補気行血、補気が鬱を保留せず、破血が気を傷つけない。それによって扶正固本(人体の機能を回復させ、正気である根本を固める)、破血消瘤(血の滞りを直し、腫瘍を消す)、標本兼治(病気そのものを治療すると同時に、病原になるものを治療すること)になる。ですから、カイジは扶正固本ができ、邪気を追い払い、抗ガンもできる。

 近代医学観点から体には腫瘍に対する免疫応答が細胞免疫と液性免疫の二種ある。両者の協力によって腫瘍細胞を殺傷する。現代的な腫瘍治療の重要な方式としての生物学的治療は、体の免疫システムを激発して動員する。マイクロ環境の抗腫瘍能力を増強させ、それによって腫瘍細胞をコントロール、殺傷する。その中には、細胞因子の治療法のように、細胞因子例えばインターロイキン-2(IL-2)、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン(IFN)などを体に注入して、各種の免疫細胞の抗腫瘍機能を調節増強して発揮する。カイジはマウス肉腫S180、腹水型S180の腫瘍抑制作用と延命作用などが著しく、原発性肝癌に対する臨床治療効果が良好であることを実験的に証明した。これは体の免疫機能の調節、促進と関係がある。 貪食能の促進:マクロファージを活性化し、活性化されたマクロファージは直接に腫瘍細胞を殺傷して、腫瘍抗原の伝達によってT細胞を活性化し、特異的な抗腫瘍効果を果たし、まだADCC作用(抗体依存性の細胞毒作用)によって腫瘍細胞を殺傷することができて、マクロファージから放出されたTNF-α、IL-1、IFN-αなどの細胞因子は抗腫瘍反応を調節することができるから、血清中のライソザイム活性の増加を測定してもマクロファージの活性を反映できる。IL-1α、IFN-αなど細胞因子は抗腫瘍反応を調節でき,血清中のライソザイム活性の増加を測定し、マクロファージの活性を反映できる。 細胞因子の産生誘発:単核貪食細胞から産生されたTNF-α、IL-1、CSF(コロニー刺激因子)らは貪食細胞の殺傷効果を活性化して増強させ、腫瘍の生長を抑制する。TNF-αはさらにNK細胞(ナチュラルキラー細胞)とCTL(細胞傷害性Tリンパ球)の活性を増強できる。T細胞はIFN-γ、IL-2を産生できる。IL-2はT、Bリンパ細胞の生長と増殖を刺激して活性化のT細胞にIFN-γ、CSFSを分泌させる。これらの細胞因子はまたCTL、NK細胞、マクロファージの細胞毒活性を増強し、LAK(リンホカイン活性化キラー細胞)、TIL(腫瘍内浸潤リンパ球)の抗腫瘍活性を誘発できる。これらの細胞因子の共同作用によって、T細胞、マクロファージ、NK細胞などの腫瘍細胞殺傷能力を増強することができる。

細胞免疫の促進作用:カイジは臍帯血EaRF(活性の花冠)とGVHR(移植片対宿主反応)に増強作用があり、これはT細胞の活性が増強することを示す。インターフェロン特にIFN-γの共同作用の下にNK細胞の活性に増強させ、腫瘍に対するCTLの殺傷作用を高める。 特異性抗体の産生を高める:抗体作用の下で、食細胞の食作用を増加してADCC作用を発揮することによって、腫瘍細胞を殺傷、貪食、溶解させる。

以上、カイジは免疫機能の調節と促進機能を持ち、それによって腫瘍細胞の殺傷と抑制作用を果たすことについて説明した。それ以外にマウス脾臓細胞のDNA合成を促進し、血清中のヘモグロビン含有量を高めるなど、造血細胞に対するある程度の促進作用があることを示した。細胞因子治療法と違うのは、カイジ薬品の投与によって産生誘発されたIFN(a、γ)、IL-2など細胞因子が内因性に属し、それらの間に小量、多刺激と共同作用の特性があり、常服すると更に明らかな効果を示す。 カイジの抗癌メカニズムに関する研究はまだ少なく、引き続き深く探索することを期待される。

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